藪美有(やぶみゆ)さんがTikTokに出会ったのは中学3年生のとき。高校2年生の夏に投稿した「超チルなラッパー」のフレーズがバズり、関連動画は1億3000万回再生を突破。同年のTikTok流行語大賞コトバ部門賞を受賞。フォロワー数は5万人を超え、TikTokを企業PRなどに活用してもらいたいと支援事業を企画し、高校3年生の11月、週休3日に就職しました。働きはじめて1年半がたった藪さんを訪ね、Z世代向けの企業PRの取り組みや課題感、SNS動画(ショート動画)の広報や採用への可能性、今後の展望などについてお話を伺いました。

週休3日正社員の働き方が繋いだ縁

──株式会社週休3日で働きはじめたきっかけを教えてください。

高校在学中の17歳の頃、地元企業が若い世代の採用活動に苦労していることを知りました。私の得意なTikTokを活かし、企業PRや採用活動を手伝えないかと思い、浜松市内の企業にメールを送り、唯一返事があったのが株式会社週休3日だったんです(笑)

社長と会い、「TikTokをどのように活用するか知りたい」と言われ、直近にあったイベントの手伝いをすることになりました。イベントまで1か月しかなかったため期待通りの効果は出せませんでしたが、社長はTikTokの可能性を感じてくれました。

改めて社長から、「株式会社週休3日という会社を活用して、藪さんのしたいことを実現してはどうか」と提案されました。ただ、「自分の力でやってみたい」という気持ちもあり、最初はお断りしたんです。ですが、働き方が「週休3日正社員」であることを説明いただく中で考えが変わりました。週休3日なら週に3日間自由に使えるので可能性が広がると思いました。「自分でやってみたいのならお休みの3日を活用してチャレンジすれば良い」と、副業も認めてくれました。ビジネスの基礎を学べるし、10代の若者ひとりでは難しい企業との交渉も会社がバックアップしてくれるということで、入社を決めました。週休3日正社員という働き方も、高校生だった私にはピッタリで、卒業後もさまざまなメリットを感じています。そのあたりの話はブログ(https://3kka.co.jp/blog/archives/1588/)を見てください(笑)

──1年半、週休3日正社員で働いた感想はいかがですか?

「仕事って、楽しい!」というのが率直な感想です。高校生のときは、決められた時間に、決められたことを勉強するのが窮屈でしたが、働きはじめると自分で自由に選択でき、無限の可能性があることに気づきました。もちろん、多くの方のサポートがあってのことですし、自由には責任が伴うことも理解しています。それでも、自分のしたいことにチャレンジしたり、スキルを伸ばしたりできるのが本当に楽しいです。

──個人投稿のTikTokと、企業案件のTikTok(SNS動画/ショート動画)では勝手が違いますよね。

一番の違いは、自分の個性をそのまま出せないことです。バズらせるために言葉選びや話し方を工夫したくても、企業案件ではブランドイメージを守る必要があります。また、個人の投稿なら一人でササッと撮影できますが、企業案件では事前に撮影カットの打ち合わせ、スケジュール調整などが必要で、最初は戸惑うこともありました。

企業案件では、お客さまとチームで進めることが何よりも大事です。撮影に慣れていない方も多いので、自然と笑顔になるような雰囲気づくりを心がけています。SNS動画(ショート動画)で気をつけることは大きく変わりませんが、広報や採用など目的に応じて、表現を変えることも求められます。

お客さまに分かりやすく指示を出したり、撮影中に「いいね」したりと、和やかな雰囲気で撮影が進む

SNS動画の分析を繰り返し、広報・採用においてより良い結果に導く

──同じ動画投稿サイトとしてYouTubeがありますが、企業や行政などがTikTokを使うとき、どのような点に気をつけたらいいのですか?

YouTubeは、サムネイルとタイトルを見て視聴するかどうかを選びますよね。でも、TikTokはシュシュッっと次々にショート動画が流れてきて、見るか見ないかを一瞬で決めます。そのため、瞬間的なインパクトやキャッチコピーがとても大事で、最初の数秒でどう伝えるかが大きく異なります。

──TikTokはそのコンマ何秒が重要なんですね。

そうなんです。私はTikTokにショート動画を投稿するたびに記録をつけていて、何日に何秒の動画をアップしたか、視聴回数はどれくらいか、最初の3秒に使った映像やBGMの内容なども細かく記録しています。「手が映っていたからよかったのかも」「このワードが響いたのかも」といった仮説を立てて検証しています。

昔から観察や分析が好きで(笑)。例えば、早口なのにバスっているTikTokerがいたら、なぜだろうと興味を持ち、じっくり観察して、仮説を立て、まねしてみる。バズることもあれば、そうでないこともありますが、繰り返すうちに自分のセオリーができ、TikTokの仕事につながりました。

TikTokをはじめ、SNS動画全般に言えることですが、読後感のよいショート動画をつくるよりも、SNSのアルゴリズムにマッチしたショート動画をつくることが大事です。TikTokの場合、視聴者がショート動画にどれだけ滞在したかが評価の指標になります。(注:2024年6月においては)アルゴリズム的には1分を超えるショート動画が伸びやすいので、最初のつかみはもちろん、視聴者を離さない、飽きさせない構成も大事ですね。

撮影も、編集も、文字入れもiPhoneだけで行う。視聴者が実際に見るサイズ感にあわせて文字の大きさなどを調整していく。

──1回投稿して終わりではなく、分析・改善をぐるぐると回し、トライアンドエラーしていくことが大事なんですね。

はい。TikTokの特性上、アカウントのフォロワー数をすぐに伸ばすのは難しいので、まずはショート動画の視聴回数を伸ばすことを目標にするのがいいと思います。TikTokはコアなファンをつくるためのものではなく、入口として知ってもらうためのツールとして活用することをおすすめしています。

SNS動画を通じて、若い世代に「共感」を届ける仕事をしたい

──地元の企業をSNS動画(ショート動画)を通じて紹介する仕事を続ける中で、なにか発見や気づきはありましたか?

多くの高校生と同じように、当時は浜松の企業をほとんど知りませんでした。仕事を通じて、さまざまな会社を知っていく中で、同じ業界でも各社でこんなにも違いがあるんだと驚きました。スマホのカメラの部品、ケースのパーツを製造する会社など、一つひとつの仕事に支えられて私たちの暮らしが成り立っているんだと実感しました。

知らないというのは悪いことではなく、知らない人の目線になって、自分が感じた企業の魅力を同じ若い世代に伝えていきたいと思います。

──今後の展望を教えてください。

今は目の前の仕事に一生懸命で、将来のことはまだ具体的には考えられていないのですが、自分が輝けることをしていきたいという思いは変わりません。人を輝かせる仕事も楽しいですが、自分自身もインフルエンサーとして活躍していきたいという思いもあります。企業さんとコラボして、製品やサービスの開発、PRのお手伝いができたらいいなと思います。TikTokは観光系のお仕事とも親和性が高いので、ぜひチャレンジしてみたいですね。

株式会社週休3日のお仕事とは別に、東京で活躍されているクリエイティブディレクターの明円卓さんの会社でインターンもしているんです。明円さんは「友達がやってるカフェ」とか、「うれしすぎるよ展」「いい人すぎるよ展」などを企画された方で、Z世代から注目を集めています。私自身もいつかZ世代に共感してもらえるビジネスをしたいと考えています。
週に3日のお休みを活かしてしっかり勉強やチャレンジができるのも、週休3日正社員の働き方の良さだと実感しています。社長からは、将来的は自分で事業を立ち上げて、株式会社週休3日での働き方は週休4日、週2日勤務、週1日勤務と調整していけばいいと話をしてもらっています。うまく行かなかったらまた週休3日になってもいいし、と。

Z世代にとって「共感」はとっても大事な価値観なんです。共感できない情報は、遮断しちゃいますから(笑)。情報をただ伝えるのではなく、共感してもらえる、楽しいと思ってもらえる情報に変換することが大事です。

私が株式会社週休3日に就職したのも、会社の理念や働き方に共感できたからなんです。AIが発達し、いろいろなものが自動化されたり、AIに代替されたりしていくと思うので、感情に訴えるような、代替できない仕事をしていきたいと思っています。