
1. はじめに
近年、「働き方改革」が社会全体の重要なテーマとなる中、介護業界においてもその必要性が高まっています。慢性的な人手不足や職員の高齢化、そして仕事の負担の大きさなど、多くの課題を抱える介護現場において、週休3日制という新たな働き方が注目を集めています。
本稿では、介護施設への週休3日制導入について、その背景、メリット、導入可能な働き方の種類、デメリットと対策、導入ステップ、そして導入後の運用までを徹底的に解説します。介護施設の経営者の方、人事担当者の方、そして現場で働く介護職員の方々にとって、週休3日制の導入がどのような変化をもたらすのか、深く理解するための一助となれば幸いです。
2. なぜ今、介護施設で週休3日制なのか?導入の背景
介護施設で週休3日制が注目される背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。
・日本社会全体の働き方改革の流れ
労働時間や休暇のあり方を見直し、多様な働き方を実現することで、労働者の満足度向上や生産性向上を目指す動きは、介護業界も例外ではありません。従来の長時間労働が常態化していた介護現場において、職員のワークライフバランスを実現する手段として、週休3日制が検討され始めています。
・介護業界の深刻な人材不足
少子高齢化が進む日本において、介護ニーズは増大する一方、介護職を目指す人は減少傾向にあります。週休3日制を導入することで、求職者にとって魅力的な職場となり、採用競争力を高める効果が期待されています。特に、仕事とプライベートの両立を重視する若い世代にとって、週休3日制は大きな魅力となり得るでしょう。固定観念に縛られた不条理な働き方は、見向きもされない時代になっています。
・介護の現場で働く職員の高齢化も
体力的な負担が大きい介護の仕事において、週3日の休日を確保することは、健康維持や離職防止に繋がる可能性があります。また、介護職員が心身ともに余裕を持つことで、より質の高い介護サービスの提供にも繋がると考えられます。
3. 介護施設が週休3日制を導入するメリットとは?
介護施設が週休3日制を導入することには、職員、施設、そして利用者にとって様々なメリットが期待できます。
3.1 職員のエンゲージメント向上と定着率アップ
週休3日制の導入は、職員のワークライフバランスを大幅に改善する可能性があります。休日を利用して、趣味や家族との時間を充実させたり、休息を取ることで、心身のリフレッシュに繋がり、仕事への意欲(エンゲージメント)向上に貢献します。
実際に、週休3日制を導入した介護施設において、週休3日で働く職員からは「もう1日働いてもいいカモ」という声が出るほど、気持ちに余裕が生まれるという報告もあります。これは、「もう1日休みタイ」と思っている状態とは対照的であり、心の余裕が質の高い介護サービス提供の基盤となることを示唆しています。
職員が働きやすい環境を整備することは、定着率の向上にも直結します。離職理由の一つにワークライフバランスの不満が挙げられることが多い中、週休3日制は長期的な人材確保に貢献するでしょう。
3.2 採用競争力の強化
前述の通り、週休3日制は求職者、特に若い世代にとって非常に魅力的な働き方です。転職を検討する際に「週休3日」という選択肢があることは、大きな動機付けとなります。
調査によると、「給与はそのままで1日10時間×4日の週休3日正社員」や「給与は8割で良いので1日8時間×4日の週休3日正社員」といった働き方に対する関心が高いことが分かっています。特に、給与が8割でも週休3日を希望する層が一定数存在することは、仕事だけでなく、他に大切なものがあるという現代の価値観を反映していると言えるでしょう。
介護業界は人手不足が深刻であるため、週休3日制を導入することで、他施設との差別化を図り、優秀な人材の獲得に繋げることが期待できます。
3.3 介護の質の向上
職員が心身ともに健康で、意欲的に働ける環境は、介護サービスの質の向上に不可欠です。十分な休息を取ることで、疲労感やストレスが軽減され、利用者一人ひとりに丁寧に向き合うことができるようになります。
「もう1日休みタイ」と思っている職員よりも、「もう1日働いてもいいカモ」と思えるほど意欲的な介護職員による介護サービスの方が、利用者にとっても望ましいことは言うまでもありません。心の余裕は、コミュニケーションの円滑化や認知症の方への丁寧な対応など、質の高い介護に繋がる可能性があります。
3.4 他介護施設との差別化
介護施設が週休3日制を導入することは、求職者に対してだけでなく、ご利用者やそのご家族に対しても大きなアピールポイントとなります。
「働きやすい職場」としての評判は、新規のご利用者獲得にも間接的に貢献する可能性があります。また、特に女性を中心に自身の子育てや家族の介護をしてきた方は、ちょうど良い働き方が心の余裕を生み介護の質につながる可能性が高いことをことを経験から知っています。さらにはちょうど良い職員が生き生きと働く姿は、施設の明るい雰囲気を作り出し、ご利用者やその家族に安心感を与えるでしょう。質の高い介護を提供できる体制が整っていることは、施設の信頼性向上に繋がり、結果として利用者の選択肢に入る可能性を高めます。
3.5 企業イメージの向上
週休3日制の導入は、介護施設が先進的な働き方改革に取り組んでいる企業であるというイメージを社会に浸透させる効果があります。これは、企業のブランドイメージ向上に繋がり、採用活動だけでなく、地域社会からの信頼獲得にも貢献します。
4. そもそも介護施設で導入できる週休3日制はどういったものがあるか
介護施設で導入可能な週休3日制には、いくつかのパターンが考えられます。それぞれの特徴と、介護現場における実現性について解説します。
4.1 給与維持型
給与を変えずに休日を1日増やすという考え方です。介護職員からすればメリットが大きいはずです。
しかしながら、介護現場においては、介護保険の報酬制度が労働時間と給与に密接に関わっているため、働く時間を減らさずに給与を維持したまま週休3日とするのは現実的ではないと言えます。介護保険の報酬は、実際に人がいて介護を提供することへの対価として発生するため、労働時間の短縮は、多くの場合、給与の減額に繋がります。
4.2 1日10時間×週4日の週休3日制
1日の労働時間を10時間とし、週4日勤務とすることで週休3日を実現する働き方です。週の労働時間は40時間となり、給与水準を維持しやすいというメリットがあります。
しかし、この働き方を導入する上での大きな課題の一つは、既存職員の勤務開始時間と終了時間の変更に伴う負担が大きい点です。現在就業している職員は、自身の生活に合わせて勤務時間を選んで入社している可能性が高く、大幅な勤務時間の変更は、生活との乖離を生み、就業継続が困難になる場合があります。既存職員が一斉に就業継続に対して不安になる可能性もあるため、慎重な検討が必要です。
4.3 1日8時間×週4日の週休3日制
1日の労働時間を8時間とし、週4日勤務とすることで週休3日を実現する働き方です。週の労働時間は32時間となり、労働時間は減少しますが、それに伴い給与も減額となるのが一般的です。
この働き方は、「給与少し減っても良いので正社員のままペースダウンしたい」と希望する層にとっては魅力的な選択肢となり得ます。仕事とプライベートのバランスを重視し、給与よりもちょうど良い働き方を重視したり、育児や介護、さらには趣味や副業との両立を考える介護職員のニーズに応えることができます。
4.4 選択的週休3日制
これは、複数の働き方を用意し、職員が自身のライフスタイルや希望に合わせて週休2日制か週休3日制を選択できる制度です。
例えば、基本は週休2日制としつつ、育児や介護、自己啓発などの理由で週休3日を希望する職員に対して週休3日を認める、といった運用が考えられます。この制度は、多様な働き方のニーズに対応できるという大きなメリットがありますが、シフト管理が複雑化するという課題もあります。
5. 知っておきたい介護施設への週休3日制導入におけるデメリットと対策
週休3日制の導入には多くのメリットが期待できる一方で、デメリットや課題も存在します。
5.1 シフト作成の複雑化
週休3日制を導入すると、勤務パターンがこれまでと大きく変わるのでシフト作成が難しくなる可能性があります。特に選択的週休3日制を導入した場合、週休2日制の職員と週休3日制の職員が混在することになり、シフト作成が一層難しくなることが予想されます。
対策: シフト作成を効率化するためのシフト管理システムの導入や、専門の担当者を配置するなどの対策が考えられます。今後、生成AIなどを使ってのシフト作成を行う解決方法も現実的になってきそうです。また、希望休のルール化、職員間のコミュニケーションを密にし、柔軟な協力体制を構築することも重要です。
5.2 人員配置の課題
週休3日制の導入により、1日あたりの必要人員数が増加する可能性があります。特に、週の労働時間が減少する働き方を選択する職員が増えた場合、総労働時間の確保のために、より多くの人員が必要となることがあります。
対策: 積極的な採用活動を展開し、人員を確保する必要があります。また、パートタイムやアルバイトなど、多様な雇用形態を活用することも有効です。さらに、業務の効率化を図り、少ない人数でも質の高いサービスを提供できる体制を構築することも重要です。
5.3 業務効率化の必要性
週休3日制を導入し、労働時間が短縮される場合、既存の業務を効率化する必要があります。限られた時間内でこれまでと同じ質のサービスを提供するためには、無駄な業務を削減し、生産性を向上させる必要があります。
対策: ICT(情報通信技術) を活用した業務効率化(記録業務の電子化、情報共有の迅速化など)や、業務プロセスの見直し、役割分担の明確化などが考えられます。
5.4 コスト増加の可能性
週休3日制の導入は、人件費の増加に繋がる可能性があります。特に1日10時間と8時間をミックスした週休3日制を導入する場合にはその可能性が大なので、あまりお勧めできません。
対策: 効率的な人員配置や多様な雇用形態の活用により、人件費の増加を抑制する必要があります。また、生産性向上による残業代の削減なども有効です。
5.5 職員間の不公平感の懸念
週休3日制の導入パターンによっては、職員間で労働時間や給与に差が生じるため、不公平感が生じる可能性があります。例えば、週休3日を選択した職員と週休2日制の職員の間で、業務負担や給与に差がある場合などが考えられます。
対策: 制度導入の目的や内容について、全職員に丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。自分とは違う働き方を認めることが、将来の自分の利益(自分が必要に迫られた時にちょうど良い働き方を選択できる)につながることを訴求するのが良いでしょう。また、評価制度やキャリアパスなどを明確にし、公平性を確保するよう努める必要があります。
5.6 マネジメントの複雑化
多様な働き方が導入されると、勤怠管理や業務指示、評価などが複雑化し、マネジメント層の負担が増加する可能性があります。 また、個々の介護職員の希望により「働き方を変更したい」という相談が増えるので注意が必要です。
対策: マネジメント層に対して、多様な働き方に対応したマネジメント研修を実施したり、情報共有ツールを活用するなどのマネジメント体制を強化する必要があります。 働き方の変更についてのルール作成も重要です。
5.7 利用者への影響
週休3日制の導入が、サービスの質の低下や利用者との関係性の希薄化に繋がるのではないかという懸念も存在します。担当者が頻繁に変わることで、利用者が不安を感じたり、必要な情報がスムーズに伝達されないといったリスクも考えられます。
対策: 導入前に利用者や家族に対して丁寧に説明し、理解と協力を得ることが重要です。また、情報共有の徹底やチームケアの強化など、利用者への影響を最小限に抑えるための対策を講じる必要があります。
6. 介護施設で週休3日制をスムーズに導入するためのステップと注意点
介護施設で週休3日制をスムーズに導入するためには、段階的なアプローチと丁寧な準備が不可欠です。
6.1 現状分析と課題の明確化
まずは、現状の人員配置、職員の労働時間、離職率、職員の意向などを詳細に分析し、週休3日制導入によって解決したい課題を明確にする必要があります。職員へのアンケート調査を実施するなどして、多様な意見を収集することも重要です。
6.2 制度設計とルール策定
現状分析の結果を踏まえ、どのような週休3日制を導入するのか、対象となる職員、労働時間、給与、休暇などの具体的な制度設計を行います。就業規則の変更なども視野に入れる必要があります。 介護施設によっては社会保険労務士と定期的な顧問契約をせず施設内で労務管理をしているところも多いですが、制度の最終確定に至る前に社会保険労務士に相談することをお勧めします。
6.3 職員への丁寧な説明とコミュニケーション
制度の内容が決定したら、全職員に対して丁寧に説明会を実施し、制度の目的や詳細、メリット・デメリットなどを十分に理解してもらうことが重要です。質疑応答の時間を設けるなど、職員の疑問や不安に真摯に対応する必要があります。
6.4 利用者や家族への理解と協力
週休3日制の導入がご利用者やご家族に与える影響について検討し、必要に応じて説明会を開催するなど、理解と協力を得るための努力が必要です。ご利用者やご家族は、変化に対して好意的に受け止められないことが多いので、週休3日制導入に対し前向きに捉えてもらえないことも多いです。特に都市部ではなく地方においてその傾向が強まります。週休3日制導入の意義と、サービスの質の維持について、丁寧に複数回伝えることで、不安の解消に努めましょう。
7. 導入すれば終わりではない週休3日制
週休3日制は、導入して終わりではありません。その効果を最大限に引き出し、持続可能な制度とするためには、継続的な取り組みが重要です。
7.1 広く知ってもらわないと意味がない
週休3日制を導入しただけでは、求職者や社会にその魅力が伝わりません。積極的に情報発信を行い、週休3日制を導入していることをアピールする必要があります。
7.2 求人情報を整備する重要性
求人情報には、週休3日制の働き方があることを明確に記載し、その魅力を具体的に伝えるように工夫しましょう。 よくある一般正社員の求人の特記事項で「週休3日も相談可」と記載するだけでは不十分です。必ず週休3日正社員の求人も個別に作成するようにしましょう。
7.3 Webサイトの重要性
施設のWebサイトにおいても、週休3日制に関する詳細な情報を掲載し、求職者が知りたい情報を入手できるように整備しましょう。 経営幹部の働き方に対する考え方や、週休3日制に対する考え方を発信することも重要です。
7.4 SNSの重要性
SNSを活用して、週休3日制で働く職員の様子や、制度導入による変化などを発信することで、よりリアルな情報を伝えることができます。 特に20代や新卒はSNSを閲覧している時間・機会が圧倒的に多い世代です。早いテンポで困惑するかもしれませんがショート動画での発信も有効です。
7.5 プレスリリース等の重要性
必要に応じて、プレスリリースなどを活用し、メディアへの露出を図ることも、認知度向上に繋がります。 効果のあるプレスリリースにはコツがあります。専門家に相談することをお勧めします。(株式会社週休3日でもご相談に対応可能です)
7.6 週休3日制の継続的な運用について
週休3日制導入後も、定期的に職員からのフィードバックを収集し、制度の見直しや改善を行うことが重要です。時代の変化や職員のニーズに合わせて、柔軟に制度をアップデートしていく姿勢が求められます。
8. まとめ
介護施設における週休3日制の導入は、介護職員の働きがい向上、介護人材確保、そして介護の質の向上に繋がる可能性を秘めた重要な取り組みです。導入にあたっては、メリットだけでなく、デメリットや課題も十分に理解し、周到な準備と丁寧なコミュニケーションが不可欠です。
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