薬剤師として保険薬局で10年間勤務後、社会保険労務士事務所を開業した鈴木氏による、よみものシリーズ「薬剤師×社労士から見た週休3日制」。第2回は「薬剤師&社労士だから分かる、薬剤師の採用が難しい地方の調剤薬局で週休3日制を導入した方が良い5つの理由」についてです。
薬剤師は都市部充足、地方では不足
こんにちは、薬剤師&社労士の鈴木です。私は現在千葉県に住んでいますが、この辺りでは薬剤師の求人がかなり減ってきました。求人情報などを定期的にチェックしていますが、年収もコロナ前と比べると50~100万円くらいは下がっている印象です。
一方で地方の薬局では、未だに薬剤師が不足している状況です。都道府県別の人口10万人に対する薬剤師数では、1位の徳島県が233.8人、2位の東京都が226.3人であるのに対し、1番少ない沖縄県が139.4人、次いで福井県が152.2人となっており、薬剤師の地域偏在は顕著となっています。年収も調剤報酬改定や薬価改定の影響で一時期と比べると下がりましたが、それでも首都圏の薬局と比べると高くなっています。
しかし忘れてはいけないのが、首都圏も地方も、調剤報酬や薬価は変わらないということです。人手不足解消のために高い年収で薬剤師を採用し続けていると、いつか膨大な人件費に苦労することは目に見えており、年収以外の魅力で薬剤師を採用していく必要があります。
そこで今回、提案したいのが「週休3日制」です。今こそ、地方の調剤薬局は「週休3日制」を導入すべき理由を5つ挙げていきます。
理由1. 派遣薬剤師として働くという選択肢がほぼ無くなった
新型コロナウイルスの影響で、薬剤師の働き方にも大きな変化がありました。その1つが、首都圏では派遣薬剤師として働くという選択肢がほぼ無くなったことです。特に首都圏において、薬剤師は売り手市場から買い手市場に変わりつつあります。先日の厚生労働省の発表でも、2045年には薬剤師が少なくとも2万4000人が過剰になるという話がありました。
薬剤師の需給調査
2021年4月、厚生労働省は薬剤師の受給推計に関する調査結果を公表し、薬剤師は2045年に最大で12万6000人、少なく見積もっても2万4000人が過剰になるとしました。 薬剤師の需給調査は以前にも行われており、2018年の時点で供給が需要を若干上回っており、今後も長期的に見れば薬剤師は過剰になっていくとしていました。
そういった影響もあり、首都圏では派遣薬剤師の募集がほとんどありません。これまで派遣薬剤師として働いてきた人の多くは、募集が無いため正社員として働き始めています。しかし、正社員として働くのも簡単ではありません。元々派遣薬剤師として働いていた人達は、それなりの理由があって派遣薬剤師という働き方を選択していました。
- 短時間で効率よく稼ぎたい
- 大きな責任を背負いたくない
- 会社指示での異動を避けたい
- 色んな職場を経験してみたい
人によって理由は様々でしょうが、その根本として、会社による精神的・肉体的な拘束を嫌うところがあります。そういった人達が、コロナの影響で仕方なく正社員として働き始めても、なかなか上手くいかないのは当然です。このような派遣薬剤師を断念した人たちの受け皿に「週休3日制」はなり得ます。
なぜ「週休3日制」が受け皿になるのか
「週休3日制」での働き方は、休みが1日増えるのはもちろんですが、それと同時に『時間的に選択の猶予を貰える働き方』とも言えます。派遣薬剤師という働き方が無くなって、正社員として働く必要が出てきた。しかし、いきなり正社員として働くのも環境的に難しい。そんな時に、「週休3日制」で働きながら今後どういう働き方をしていくか考える。コロナが落ち着いて派遣薬剤師の仕事が戻ってくるかもしれないし、会社が気に入って週5日の正社員に切り替える選択肢もあります。もちろん、ずっと「週休3日制」で働いていくのもアリです。一度立ち止まってじっくり考えたい。かといって全く働かないわけにもいかない。そんな時に「週休3日制」という選択肢があることで、元派遣薬剤師の人の受け皿になると考えます。
元派遣薬剤師は薬剤師として優秀な人が多い
社内で管理薬剤師→エリアマネージャー→部長のように昇進を目指すキャリアの場合、その会社で長く働いている人の方が有利です。その会社に多くの人脈があり、色んなことを知っているからです。しかし昇進というキャリアではなく薬剤師としての専門性を追求していくキャリアの場合、もちろん1つの職場で長く働いた経験も貴重なのですが、色んな職場で働いた経験も非常に大切です。そしてコロナ禍の現在、派遣薬剤師として色んな職場を経験してきた優秀な薬剤師さんが市場にあふれています。今このタイミングで「週休3日制」を導入することで、そういった優秀な薬剤師さんを採用できる可能性が高くなります。
理由2. 若い頃からキャリアについて考える学生が増えている
私も薬剤師としての経験が長くなってからは、キャリアについての相談を受ける機会が増えました。薬学部の学生さんから相談を受けることもあります。
そんな学生さんの相談を受けていて思うのが、「最近の学生さんは、若い頃から自身のキャリアについてよく考えている」ということです。
近年はSNS等で手軽に情報収集できるからでしょうか。
学生のうちから、多くの先輩薬剤師や薬局経営者に話を聞き、自身の就職活動に活かそうとしています。
私が学生の頃なんて、何も考えず周りに流されるがまま就職活動を行ったものですが・・・
ではそういった学生は、どんなキャリアをイメージしているのでしょうか。
「薬剤師として生き残っていくためには、薬に関すること以外の知識やスキルも必要」
「薬剤師の需要が減った時のために、薬剤師以外でも働けるようなスキルも身につけたい」
このように、薬剤師としての専門性を追求していくというよりは、薬以外のことも幅広く勉強しておきたいと考える傾向があります。人生100年時代。そして薬剤師が過剰になると言われている昨今、そう考えるのも当然の流れといえます。そして、そういう学生にとって「週休3日制」は非常に魅力的です。
- 他の会社でも働いてみる
- スキル習得のため習い事をする
- 学生時代からの趣味を続ける
- ボランティアなどに参加してみる
休みが1日増えるだけで、色々ことに挑戦する機会が増えるからです。一見会社にはメリットが無いようにも見えます。しかし、会社以外での挑戦で得た経験を、薬剤師としての業務に還元してもらえれば、会社にとってもメリットです。そして、近年の薬局に求められている地域貢献活動は、会社以外での繋がりから始まることも多かったりします。そういう意味で、会社と薬剤師がwin-winの関係性を築けるのではないでしょうか。
新卒から「週休3日制」で働くということ
新卒から「週休3日制」で働くことに対して違和感を覚える人もいると思います。「まずは週5日しっかり働いて、薬剤師としての基本的スキルを身につけるべき」そういった意見も分かります。しかし、学生から社会人となるタイミングでの環境変化の厳しさに、就職してすぐに辞めてしまう人が薬剤師にも多くいるのが現実です。このような事は、辞めてしまった人だけでなく会社にとっても大きな痛手なのは間違いありません。
厚生労働省の発表では、2016年3月の大卒就職者の、3年以内での離職率は32%です。その一方で、従業員5人未満の職場における離職率が57.7%ということも分かっています。大学を卒業して、いきなり薬局のような小規模の職場で働いていくというのは、非常に大変なことなのです。そういった早期の退職を防ぐため、新卒からの「週休3日制」という選択肢もあって良いのではないでしょうか。「週休3日制」の導入によって、学生時代からの趣味や習い事を続けやすくなります。それによって、学生から社会人への環境変化を和らげ、スムーズに職場へ馴染んでいけるはずです。
理由3.「週休3日制」を会社のブランディングに
薬剤師として働こうと思った時、新卒・中途に関わらず就職活動をしていて悩ましいのが「それぞれの会社の違いが分からない」ということです。これは学生や転職活動をしている薬剤師からも聞く話ですし、私自身が学生として就職活動をした時にも思いました。実際に働いてみると違いも分かるのですが、就職活動の段階だと、せいぜい給与と福利厚生の違いくらいしか分かりません。
ただそれも仕方ない事だと思うのです。会社や店舗の雰囲気なんて、口で説明してもなかなか伝わらないものですから。そういった状況において、会社や店舗のことを伝えるのに「週休3日制」というネーミングが役に立ちます。最近の若い薬剤師は、給与もそうですが、ワークライフバランスを求める傾向にあります
- 育児をしやすいか
- 休みたい日に休めるか
- 残業が少ないか
採用活動をしていると、こういった質問をよく受けるはずです。もちろん「週休3日制」がこれらを全て解決してくれるわけではありません。しかし、「週休3日制」を導入しているという事実が、会社が現代社会において求められる「多様な働き方」に積極的というイメージに繋がります。「週休3日制」が分かりやすいブランディングとなるわけです。
例えの話ですが、「弊社は女性が出産後も仕事を続けやすい会社です」と謳っている
の2つの会社があった時、薬剤師は果たして、どちらが本当に仕事を続けやすい会社だと思うでしょうか。実態としては同じでも、ネーミングのもたらす効果はとても大きいのです。
地方の薬局は、首都圏に本社があるような大手チェーンと比べると、どうしても採用に不利です。実際に会社がワークライフバランスに取り組んでいたとしても、しっかり言語化しなければ薬剤師には伝わりません。採用にも繋がらないということです。
そういった意味で、取り組みの良さが伝わりやすく、また大手ほど導入にコスト・労力のかかる「週休3日制」の導入は、大手チェーンとの差別化にも繋がり、自社の良いブランディングになると言えます。
理由4. 「週休3日制」を地方移住者の選択肢として
ここ10年ほど、地方移住者が増えています。またコロナの影響もあり、新たに地方への移住を検討する人も増えています。
~地方移住者の数~
少し古いデータになってしまいますが、毎日新聞とNHK、明治大学地域ガバナンス論研究室の共同調査によると、2014年度の地方移住者数は1万1735人で、09年度と比較して4倍以上に増えているそうです。
~コロナ禍での移住~
2020年の「住民基本台帳人口移動報告」によると、年間を通しては、市区町村間での移動者数は前年と比較して少なかったようです。ただし東京都の転入超過数は前年と比較して減少しており、月によっては転出超過の月もありました。東京一極集中の流れが弱まってきていることが伺えます。
薬剤師の仕事は今のところリモートワークの出来る仕事ではありません。しかし、家庭の事情で地方の薬局へ転職を検討している人も多いです。そういった人たちに対して、「週休3日制」は魅力的に映ります。というのも、地方移住に当たって、まずは労働時間をセーブして働きたいという人が多いからです。ここ数年、地方移住のハードルは下がっています。地方では、移住者に対して様々な支援を行っている自治体も多いです。
しかし、いくらハードルが下がっているとは言っても、大きな労力を要することは間違いありません。全く知らない土地に引っ越して、一から新しい生活をスタートする。簡単なわけがありません。そんな地方移住者が、まず手っ取り早くコミュニティに属し、地域に馴染むことが出来るのが仕事です。まず、その職場でのコミュニティ。そして次に、職場の人達から更にその周りへと広がるコミュニティ。
都心から地方に移住した人には過度なコミュニケーションを嫌がる人も多いです。しかし、その地域に馴染むためには、多少のコミュニティには属し、最低限のコミュニケーションを取っていく必要があります。とは言っても、見ず知らずの土地でいきなり週5日フルに働くのが大変なのも事実。
そんな時に役立つのが「週休3日制」です。労働時間をセーブしながらまずは地域に馴染み、生活が安定してきたら週5日のフルに切り替える。あるいは週休3日のまま地方での自由な生活を満喫したり、趣味に没頭したりするのも良いと思います。そういった、仕事と生活の選択肢を増やしてくれるのも「週休3日制」の良いところです
また、移住を考えるタイミングというのも重要です。都心に住んでいる人たちが地方への移住を考えるタイミング、それは出産や育児を機に、広い家に引っ越す必要がでてきた時です。そう考えると、育児にも時間を使いやすい「週休3日制」は理想的なのではないでしょうか。
理由5. 「週休3日制」はシフトを調整しやすくなる
地方には、クリニックとマンツーマンの門前薬局が多くあります。そういった薬局は残念ながら厚生労働省からの評価が低いですが、そのような薬局が地方の医療を支えているのも事実。この状況はもうしばらく続くと思われます。
このような薬局でしばしば問題となるのが「薬剤師が休みを取りにくい」ということ。クリニックとの関係で営業時間が拘束されることに加え、少人数の薬剤師で店舗を回さざるを得ないことも影響します。
薬剤師が2人の店舗と10人の店舗では、1人の休みが与える影響は全然異なります。薬剤師2人の店舗の方が、影響が大きいのは明らかでしょう。その結果、薬剤師が2人の店舗は休みを取りにくくなってしまうのです。
しかしこの薬剤師2人の店舗が、もし週休3日の薬剤師3人で回す店舗だったらどうでしょうか。1人の薬剤師が休みを希望した時は、残りの2人が出勤すれば良いだけです。これはシフトを組んだ経験のある人なら分かると思うのですが、働ける日数は少なくても良いので、在籍する人の数が多い方が、シフトは組みやすいのです。
もちろん、夜に閉店まで働けるかという問題もあるので、これで全てが解決するわけではありません。しかし、シフトの調整がしやすくなるのは確かです。実は少人数の薬局ほど、「週休3日制」を導入するメリットは大きいのです。
まとめ
以上「薬剤師&社労士だから分かる、地方の調剤薬局で週休3日制を導入した方が良い5つの理由」でした。いかがだったでしょうか。
今こそ地方の調剤薬局が「週休3日制」を導入すべき理由を5つ挙げました。「週休3日制」が薬剤師不足を完全に解決してくれるわけではありませんが、選択肢として導入しておくことで、その可能性は高くなります。また、働く人の満足度も高くなるはずです。
コロナの影響もあり、現在は転職市場に優秀な薬剤師が多くいます。このタイミングで「週休3日制」を導入し、優秀な薬剤師の採用を積極的に狙ってみてはいかがでしょうか。
ライター:鈴木哲平
昭和61年生。北海道大学大学院を卒業後、薬剤師として保険薬局で10年間勤務。その後、令和3年8月に千葉県市川市にて社会保険労務士事務所を開業。4歳と2歳の子供がおり、休日は子供と遊びに出かけたり、趣味のサッカー観戦を楽しんだりしている。