薬剤師として保険薬局で10年間勤務後、社会保険労務士事務所を開業した鈴木氏による、よみものシリーズ「薬剤師×社労士から見た週休3日制」。今回は「週休3日制」を導入する調剤薬局なら確認しておきたい「同一労働同一賃金」のポイント」です。

同一労働同一賃金と週休3日正社員

ここ数年業界を賑わせていた「同一労働同一賃金」ですが、2021年4月から中小企業でも施行されたことにより、少しですが落ち着きを見せてきました。調剤薬局においても求められていることですので、すでに取り組まれているかと思います。ところでこの「同一労働同一賃金」が、「週休3日正社員」も影響するケースの多いことはご存知でしょうか。会社としては「正社員」と呼んでいても、フルで働く正社員と比べて労働時間が短ければ、法律上は「短時間労働者」となり、正社員との「同一労働同一賃金」が重要となってくるのです。そこで今回は、改めて「同一労働同一賃金」について基本的な部分を紹介し、「週休3日正社員」などの待遇改善に役立てて頂ければと思います。

「同一労働同一賃金」とは

「同一労働同一賃金」とは、働き方改革関連法に基づき、正社員と非正規社員との間の不合理な待遇差を禁止する制度です。大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月から施行されています。

働き方改革とは

日本では、

・少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少

・育児や介護との両立など、働く人の環境やニーズの多様化

といった状況に直面しています。

こうした状況下で、

・投資やイノベーションによる生産性向上

・就業機会の拡大や、意欲・能力を存分に発揮できる環境作り

が重要な課題となっています。

「働き方改革」はこれらの課題を解決するため、働く人が置かれた個々の事情に応じて多様な働き方を選択できる社会を実現し、一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。

具体的には、

1. 働き方改革の総合的かつ継続的な推進

2. 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等

3. 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

の3つを大きな目的とし、それぞれ関連する法律を改正しています。

この中で『3. 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保』がいわゆる「同一労働同一賃金」と言われるもので、パートタイム労働法(パートタイム・有期雇用労働法)などの関連する法律が改正されました。

同一労働同一賃金の背景

これまでの日本経済は、正社員の終身雇用によって大きく発展してきました。しかし、少子高齢化や経済のグローバル化等を背景に、日本人の働き方も多様化しており、近年では労働者の約4割を非正規社員が占めるようになりました。そういった中で、正社員と非正規社員との間の賃金格差についてもクローズアップされるようになりました。内閣府の調査によると、2016年度の正社員と非正規社員との間の賃金格差は、所定内給与ベースで1.5倍、年収ベースで1.8倍にもなっています。またそれ以外にも、福利厚生や能力開発の機会等といった面でも格差が存在しています。

少子高齢化が進む日本では、非正規社員がその能力を有効に発揮できる環境を整備するとともに、多様な形態で働く人々がそれぞれの意欲や能力を十分に発揮し、その働きや貢献に応じた待遇を得ることのできる環境作りが重要です。そういった背景から同一労働同一賃金の必要性が高まり、法改正へと至りました。

「同一労働同一賃金」に関連する法改正

「同一労働同一賃金」に関連する主な法改正の内容は以下の通りです。

(1)不合理な待遇差があるかどうか、個々の待遇ごとに、その待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨が明確にされた。

(2)短時間労働者に加えて、有期雇用労働者にも「均等待遇」の確保が義務化された。

(3)短時間・有期雇用労働者から求めがあった場合に、事業主は通常の労働者との間の待遇差の内容、その理由について説明することが義務化された。

(4)派遣労働者について「①派遣先の労働者との均等・均衡待遇」「②労使協定による待遇」のいずれかを確保することが義務化された。

それぞれについて、少し細かく確認していきます。

(1)不合理な待遇差があるかについて、個々の待遇ごとに、その待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨が明確にされました。後程詳しく述べますが、全ての待遇差が禁止されているわけではありません。不合理な待遇差が禁止されています。そして待遇差が存在する場合に不合理がどうかを個々の待遇ごとに判断されることが明確になりました。ここでいう個々の待遇とは、基本給、賞与、手当等の給与関連はもちろんですが、福利厚生や教育訓練、休暇などすべての待遇が含まれます。

(2)短時間労働者についてはこれまでも「均等待遇」の確保が義務化されていましたが、今回、有期雇用労働者についても「均等待遇」の確保が義務化されました。ここで「同一労働同一賃金」を考えるうえで重要な「均等待遇」と「均衡待遇」を紹介します。

〇均等待遇:短時間・有期雇用労働者の待遇について、通常の労働者と同じ方法で決定されること。同じ取扱いのもとで能力、経験等の違いにより差がつくのは問題ない。

〇均衡待遇:短時間・有期雇用労働者の待遇について、通常の労働者との間に違いがある場合に、不合理な待遇差がないこと。(1)では、この均衡待遇において、不合理でないかどうかを個別の待遇ごとに判断されるべき旨が明確にされた。

「均等待遇」と「均衡待遇」のどちらが求められるか

「均等待遇」「均衡待遇」のどちらが求められるかは、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で

①職務の内容

②職務の内容・配置の変更の範囲

この2点が同一か否かで決まります。

①と②が同じ場合は、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いが禁止され、「均等待遇」が求められます。

一方で①あるいは②が異なる場合は「均衡待遇」であることが求められます。短時間・有期雇用労働者の待遇は、①と②の違いに加えて「③その他の事情」を考慮し、通常の労働者との間に不合理な待遇差がないようにすることが求められます。また「③その他の事情」とは、職務の成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、事業主と労働組合との交渉の経緯などをいいます。

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(3)パートタイム・有期雇用労働法において、事業主は短時間・有期雇用労働者の求めに応じて、通常の労働者との間の待遇差の内容やその理由について説明することが義務化されました。説明を行うに当たっては、以下のポイントに注意して説明する必要があります。

『ポイント1:比較する通常の労働者は誰か』

パートタイム・有期雇用労働法においては、全ての通常の労働者との間で不合理な待遇差の解消が求められます。待遇差の内容や理由について説明するに当たっては、職務の内容等が最も近い通常の労働者が比較の対象となります。

『ポイント2:待遇差の内容と理由として何を説明するか』

「待遇差の内容」としては、

①通常の労働者と短時間・有期雇用労働者とで待遇の決定基準に違いがあるかどうか

②通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の待遇の個別具体的な内容又は待遇の決定基準

を説明する必要があります。

また、「待遇差の理由」としては、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情に基づき具体的に説明する必要があります。

『ポイント3:説明の仕方』

説明に当たっては、短時間・有期雇用労働者が説明内容を理解することができるよう、就業規則や雇用契約書などの資料を活用して説明します。また、説明すべき事項を記載した文書を作成した場合には、当該文書を交付する方法でも差し支えありません。

(4)今回の法改正では、派遣労働者の不合理な待遇差の解消を進めるために労働者派遣法も改正されています。派遣労働者の待遇は、

①派遣先企業の通常の労働者との均等・均衡待遇を実現する(派遣先均等・均衡方式)

②派遣元企業における労使協定に基づいて待遇を決める(労使協定方式)

のいずれかの方式によって決めることが義務化されました。

「派遣先均等・均衡方式」とは、派遣労働者と派遣先企業の通常の労働者との間で均等・均衡の取れた待遇にする方式です。

一方で「労使協定方式」とは、派遣元企業が労働組合等と労使協定を締結し、派遣労働者の賃金を同種業務に従事する一般の労働者の賃金水準と同等以上にする方式です。ただし「労使協定方式」の場合であっても教育訓練および福利厚生施設は、派遣先の通常の労働者との均等・均衡が求められます

調剤薬局における「同一労働同一賃金」

ここまで「同一労働同一賃金」について簡単に見てきました。次に、薬局においてもありがちな状況を挙げてみます。

短時間労働者は「均等待遇」なのか「均衡待遇」なのか

まず一例として、短時間労働者を挙げます。

多くの薬局では、短時間労働者が在籍していると思います。その短時間労働者には「均等待遇」が必要なのか、「均衡待遇」が必要なのかを確認する必要があります。会社によって本当に様々なのですが、「正社員は異動があるが、短時間労働者は異動が無い」という会社も多いです。その場合は「配置の変更の範囲」が異なるので「均衡待遇」となります。

次に、「均衡待遇」といっても待遇差が不合理であってはいけません。正社員は異動があることに対して、会社としてどのような待遇に差を付けているのか。手当で差を付けるのか、評価で差を付けるのか、それとも他の部分で差を付けるのか。この辺りを整理しておかないと、短時間労働者から求めがあった時に、待遇差の内容や理由について説明できなくなってしまいます。

研修や学会への参加

薬剤師は、研修や学会へ参加する機会が多い職業です。そうした学習の機会に対して、例えば「正社員は会社負担、非正規社員は自己負担」であったり、「学会参加は正社員のみ」であったりというような差を付けている会社もあります。しかし、同一労働同一賃金においては賃金だけでなく、学習の機会に対しても「均等待遇」「均衡待遇」が求められます。もし待遇差があるのであれば、その差が合理的であると言える理由が必要になります。

責任の程度の違い

「均等待遇」か「均衡待遇」かを判断する要因の1つに「職務の内容」がありますが、この「職務の内容」とは、「業務の内容」および当該業務に伴う「責任の程度」のことをいいます。薬局においては、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者の間で「責任の程度」が異なることがよくあります。時間外の対応は誰が行うことになっているか。クレームがあった場合はどのような流れで対応しているか。特に短時間労働者は時間外の対応が難しい場合も多く、そういった業務や責任は免除されていることが多いです。この「責任の程度」についてもきちんと考慮しないと、必要以上に「均等待遇」としてしまい、通常の労働者から不満が生じてしまう場合もありますので注意しましょう。

不合理な待遇差の点検・検討手順

このように、会社によって様々な待遇があり、それぞれの待遇について、会社の状況によって待遇差があっても良いのか、あるならその待遇差が不合理でないかどうかを検討しなくてはいけません。全ての会社に対して一律の答えは無いのです。

そんなわけで最後に、不合理な待遇差がないかどうかの点検・検討手順を紹介しようと思います。これは厚生労働省が作成したマニュアルを簡略化したものになりますので、もし実際に行うのであれば、原本を一度読んでみることをオススメします。

ステップ1

社内の労働者を従業員タイプごとに区分し、それぞれの従業員タイプの特徴を「労働契約期間」「1週間の労働時間」をもとに整理します。これにより、パートタイム・有期雇用労働法の対象となる労働者を雇用しているかを確認します。

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〇パートタイム労働者:1週間の所定労働時間が、同一の事業主に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者。

〇有期雇用労働者:事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者。

「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託」「契約社員」など様々な呼び方がありますが、呼び方に関わらず、この条件に当てはまる労働者であればパートタイム・有期雇用労働法の対象となります。

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ステップ2

「均等待遇」「均衡待遇」の対象となる労働者を確認します。前述の通り、「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲」の両方が通常の労働者と「同じ」場合には「均等待遇」の対象、それ以外の場合には「均衡待遇」の対象となります。同じ従業員タイプの中に「均等待遇」の労働者と「均衡待遇」の労働者がいる場合には、分けて考えます。

ステップ3

通常の労働者に支給・付与されている待遇について、以下に示す「①待遇の適用の有無」「②待遇の決定基準」の2つの要素から、従業員タイプごとに通常の労働者との「違い」を確認します。

①「待遇の適用の有無」 ~当該待遇は短時間・有期雇用労働者を支給対象としているか。

② 「待遇の決定基準」 ~当該待遇はどのような基準(例えば、賃金テーブルや人事評価等)で決定されているのか。 その基準は通常の労働者と短時間・有期雇用労働者とで「同じ」か「異なる」か。

ステップ4

個々の待遇ごとに以下の手順で均等・均衡を点検します。

①「均等待遇」の対象となる従業員タイプについては、全ての待遇が通常の労働者と「同一」であるかを確認します。

②「均衡待遇」の対象となる従業員タイプについては、「適用の有無」あるいは「決定基準」に「違い」がある場合には

(1) 当該待遇の「性質・目的」を確認し

(2)「性質・目的」に適合する考慮要素を3考慮要素の中から特定し

(3) その考慮要素に基づき、「違い」を適切に説明できるかを検討します

※「性質・目的」とは、

・なぜその待遇に関する制度を設けたのか

・どのような事に対してその待遇を支給・付与することとしているのか

・その待遇を労働者に支給・付与することにより、どのような効果を期待しているか

といったことです。

※3考慮要素とは、「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲」、「その他の事情」です。

ステップ5

最後に、均等待遇の場合で待遇の決定基準が異なる場合や、均衡待遇の場合で「違い」が適切に説明できない場合には、是正策を検討します

まとめ〜同一労働同一賃金と週休3日制〜

以上、「週休3日正社員」にも影響する「同一労働同一賃金」について、基本的な部分を改めて紹介し、薬局においても気を付けるべき点、そして不合理な待遇差がないかどうかの点検・検討手順を紹介しました。「同一労働同一賃金」は最初にも述べた通り、少子高齢化の進む日本において、多様な形態で働く人々が、それぞれの意欲や能力を十分に発揮するための環境作りが目的です。これは「週休3日制」の導入目的とも類似してくると思います。「週休3日制」を導入する際には、ぜひセットで「同一労働同一賃金」にもついても再確認し、従業員の労働環境改善を進めていきましょう。