薬剤師として保険薬局で10年間勤務後、社会保険労務士事務所を開業した鈴木氏による、よみものシリーズ「薬剤師×社労士から見た週休3日制」。今回はズバリ「薬剤師が週休3日で働くメリット・デメリット」です。
週休3日という制度が、国の方針もあり少しずつ広がってきています。それは薬局業界でも例外ではなく、週休3日で働く薬剤師、働いてみたいという薬剤師も増えています。この記事を読まれている方も、なんとなく週休3日という働き方に興味があってこの記事を読んでいることと思います。
しかし、働き方を変えるのは勇気が必要ですよね。週休3日で働いている薬剤師が周りにいなくて、話を聞く機会というのもなかなか無いのではないでしょうか。そこで今回は、知人の週休3日薬剤師としての実体験に、私の社会保険労務士としての視点も加えつつ、週休3日薬剤師のメリット・デメリットについて紹介しようと思います。なお週休3日にもいくつかパターンがありますが、今回は導入している薬局が一番多いであろう、労働時間が8時間×4日=32時間に減り、給与もそのぶん4/5に減るパターンを想定しています。
メリット1:自由な時間が増える
週休3日という働き方を検討する、ほぼ全ての方が「自由な時間が週1日増える」ことを挙げるはずです。
自由な時間が週1日増えることで、
- 育児や介護など家庭生活に費やせる時間が増える
- 働きながらでも病気の治療等が容易になる
- 趣味や副業、勉強などに費やせる時間が増える
など様々なことが可能になります。
これらについては過去の記事でも書いていますし、個人の事情が関係しますので、あまり詳しくは書きません。しかし週休3日という働き方には他にもメリットがあります。そしてもちろんデメリットもありますので、続けて書いていこうと思います。
育児と介護の違い
一括りにされることの多い育児と介護ですが、実際のところは全然性質の異なるものと感じます。介護であれば、スケジューリングが非常に重要です。毎月何日は病院に行って、毎週何曜日はヘルパーさんに入ってもらって、何曜日は宅配サービスを頼んで、何曜日は買い出しをしつつ様子見に行って・・・。
一方で育児は、臨時的な対応が非常に多くなります。風邪をひいて保育園から呼び出されたり、朝子供の機嫌が悪くて予定の時間に家を出られなかったり、保育園の行事で預かってもらえない日があったり・・・。
このような違いがある中で、週休3日という働き方がより負担を軽減できるのは介護です。介護対象者の通院に付き添ったり、対象者の自宅が遠方な場合に通ったり。週休3日で働くことで、そういったことが容易になります。
一方で育児に関しては、週に1日休みが増えることも助かるのですが、それよりも毎日1時間短く働いたり、子供の急な風邪があっても帰りやすい、薬剤師の多い職場で働いたり。そういった働き方のほうが、育児の負担は軽減できると思います。
メリット2:社会保険・雇用保険に加入できる
普通に働いていると、なかなか意識することが無いかもしれません。しかし、社会保険(健康保険、厚生年金、介護保険)や雇用保険に加入できるということは、実は非常に大きなメリットです。
勤める薬局が社会保険に加入しているという前提ですが、
- 1週間の所定労働時間
- 1カ月の所定労働日数
この2つが正社員の4分の3以上の場合、社会保険に加入することとなります。
多くの薬局では、
- 週30時間以上勤務
- 月15日以上勤務
だいたいこのくらいの勤務で社会保険に加入することとなり、週休3日・週32時間勤務の薬剤師はこの要件を満たします。
また雇用保険にも、
- 31日以上雇用される見込み
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
この2つの要件を満たすことで加入できます。
若くて元気な方は、社会保険や雇用保険に加入せず、とにかく手取りを増やしたいとい方もいるかもしれません。しかし、何かあった時に助けてくれるのが社会保険であり、雇用保険です。
社会保険・雇用保険に加入することで、何かあったときに助けてくれる制度を以下に挙げていきます。
1. 障害厚生年金・遺族厚生年金
厚生年金加入中などに障害を負ったり亡くなったりした時、国民年金から支給される障害基礎年金・遺族基礎年金に上乗せされるかたちで厚生年金から支給されるのが障害厚生年金・遺族厚生年金です。社会保険料を多く納めた方ほど年金額が多くなりますが、納めた期間が25年未満の場合には25年納めたとみなして年金額が計算されるなど、若くして障害を負ったり亡くなったりした方のための措置もあります。
2. 傷病手当金
病気やケガで仕事を休み、会社から十分な給与を受けられない時に、健康保険から給与の3分の2を支給してもらえるのが傷病手当金です。この傷病手当金は健康保険の制度であり、国民健康保険の加入者は一部の例外を除いて支給を受けることができません。
3. 出産手当金
出産のため会社を休んだとき、出産の日以前42日から出産の日後56日目までの範囲内で、健康保険から給与の3分の2を支給してもらえるのが傷病手当金です。この出産手当金も健康保険の制度であり、国民健康保険の加入者は支給を受けることができません。
4. 育児休業給付金
雇用保険の加入者が育児休業を取得したとき、雇用保険から給与の3分の2あるいは2分の1を支給してもらえるのが育児休業給付金です。この育児休業給付金は、育児休業を開始した日前2年間で12か月以上雇用保険に加入していた必要があります。
5. 基本手当(失業手当)
雇用保険の被保険者が離職したとき、失業中の生活支援と再就職の促進を目的とした手当が基本手当です。基本手当を受けられる期間は、雇用保険に加入していた期間等から決定され、長く加入していたほど基本手当を受けられる期間も長くなります。
このように、社会保険や雇用保険に加入しておくと、何かあって働けなくなったとき、働かなくなった時に様々な給付を受けることができます。もちろん、社会保険であれば2分の1、雇用保険であれば3分の2程度、保険料を会社が負担してくれるということで、金銭的なメリットもあります。
メリット3:連勤のストレスや疲れが減る
週休3日で働くと、連勤のストレスや疲れを減らせる可能性があります。仕事によるストレスや疲れ。この原因は、単純に労働日数の影響もありますが、連勤の長さも影響していように感じます。
一般的な週5勤務の場合でも、
- 月曜~金曜の5連勤
- 月曜・火曜の2連勤、木曜~土曜の3連勤
この2つだと、どちらがストレスや疲れを感じると思いますか?私はどちらの経験もありますが、やはり月曜~金曜の5連勤の方がつらかったです。
このように週休3日には、単純に休みが1日増えるというだけでなく、その増えた休みが週の中頃にあれば、連勤を減らせるという良さもあるのです。
全員が週40時間という不思議
大勢が働く職場にいると、よく風邪をひいて休みがちな人もいれば、全く風邪を引かない人もいます。ちょっとしたことで精神的に疲れてしまう人もいれば、全然気にせず元気な人もいます。でもこれは当然な話です。人それぞれ体力には差があるし、ストレスの感じ方にも違いがあるからです。それならば、そういった体力の無い人、ストレスを感じやすい人にこそ、週休3日という働き方はお勧めです。
労働基準法に週40時間という数字があるからといって、全員が週40時間で働く必要はありません。労働基準法はあくまで上限を定める法律です。多様性を認める時代に、週40時間という働き方に縛られる必要は無いのではないでしょうか。
週40時間の変遷
日本で労働基準法が制定されたのは1947年です。この時には、労働時間の規制は1日8時間、週48時間でした。その後1987年の労働基準法改正で、段階的に1日8時間、週40時間に短縮していくこととなりました。そして1993年の改正で、一部の職種を除いて1日8時間、週40時間の規制が実施されました。
こういった労働基準法の変遷からも分かるように、週40時間というのは約30年も前に作られた基準です。その後、ITが普及して仕事の生産効率は激増し、生活環境も大きく変化しました。それなのに、いつまでも30年前に作られた週40時間という基準が続いているのも不思議ですよね。
メリット4:週32時間という要件を満たせる
これはメリットとは少し異なるかもしれませんが、薬剤師にとって週32時間というキーワードには大きな意味があります。というのも、薬剤師として働く場合、週32時間働いていると常勤薬剤師として認められるからです。これは医師等も同じであり、厚生労働省からの通知で示されています。
そして、管理薬剤師の要件として常勤であることが求められます。この要件については都道府県で解釈が異なることもあるようですが、多くの場合には週32時間働いていれば管理薬剤師として認められます。会社にとって、管理薬剤師が可能かどうかは大きなポイントです。そういった意味で週休3日という働き方は、休みを1日増やしながらも常勤薬剤師として認められ、管理薬剤師の要件を満たすことができるという良いとこ取りの働き方といえます。
さらに近年では、薬局における加算要件にも週32時間というキーワードが見られます。
地域支援体制加算
管理薬剤師は以下の要件を満たす必要があります。
- 保険薬剤師として5年以上の薬局勤務経験
- 週32時間以上勤務
- 当該薬局に継続して1年以上在籍
かかりつけ薬剤師指導料
かかりつけ薬剤師指導料を算定するためには、その薬剤師が以下の要件を満たす必要があります。
- 薬局勤務経験が3年以上
- 週32時間以上勤務
- 当該薬局に継続して1年以上在籍
- 薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定の取得
- 医療に係る地域活動の取り組みへの参画
このように、加算要件として週32時間以上勤務というキーワードが入っています。その理由としては、まさにその言葉の通り、『かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局』として患者さんと継続的に関わることで、薬局や薬剤師が、薬の重複投与や相互作用による被害を防いでほしいという考えがあります。しかし短時間しか働いておらず、あまり薬局にいない薬剤師では、継続的に関わっていくこともできないですよね。そのための週32時間勤務という要件なのです。
今後も加算要件に変更があったり新しい加算ができたりあると思いますが、『かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局』という方向性に変わりはないと思います。そういった加算要件を満たすためにも、週休3日という働き方は非常に理にかなった働き方といえます。
デメリット1:保育園に預けられない場合がある
次に週休3日のデメリットを挙げていきますが、これは少し意外かもしれません。しかし、子育てをしている親からすると切実な問題です。
週休3日という働き方には、子育て中の薬剤師にとってすごく助かるイメージがあるかもしれません。しかし働く時間が週32時間となると、地域によっては保育園に預けられなくなる可能性がでてきます。というのも、多くの市町村では保育園の利用調整を点数制で行っているからです。保育の必要度を点数化し、点数の高い家庭の子供から保育園に預けられる仕組みです。点数の内訳には両親の勤務時間もあり、私の住む地域では週35時間以上がフル勤務と同じ20点となり、週32時間の場合は19点となってしまいます。そして、私の住む地域では待機児童が多いこともあり、19点となってしまうと、まず保育園に預けられません。
- 何時間以上がフル勤務と同じ扱いになるか
- そもそも勤務時間ではなく勤務日数が基準になるか
- 基準が週ごとではなく月ごとか
など市町村によって基準は異なりますが、両親の勤務時間は保育の必要度を点数化するうえで非常に重要なポイントです。
子育てのために週休3日を検討する人も多いと思いますが、そもそも子育てしながら働くためには、保育園等に預ける必要があります。週休3日にすることで保育園等に預けられなくなる事がないか、事前に確認しておくと良いでしょう。
デメリット2:給料が減る
何を当たり前のことを・・・と思うかもしれません。しかし給料が減るということは、様々なところに影響を与えます。その1つが年金です。メリットとして挙げた障害厚生年金・遺族厚生年金、さらには老後に貰える老齢厚生年金。これらは給料(厳密には標準報酬月額)から算出した社会保険料を、過去にいくら納めたかで金額が増減します。給料が減るということは、こういった各種厚生年金の貰える額が減ることにつながります。またその他にも、産休取得時に健康保険から支給される出産手当金や、育休取得時に雇用保険から支給される育児休業給付金も給料をもとに支給額が決定するため、貰える額が減ってしまいます。病気やケガで働けなくなった時に支給される傷病手当金もそうですね。
「働く時間が短いのだから、貰える給料が減るのも仕方ない・・・」と納得した上で週休3日を選択するのだとは思います。しかし、給料が減ることが様々なところに影響することも知っておいた方が良いでしょう。
まとめ
以上、今回は薬剤師が週休3日で働くメリット・デメリットを挙げてみました。実際に週休3日で働いてみないと分からないもの、制度として知らない人も多そうなものを挙げてみましたが、いかがだったでしょうか。国が推し進めていることから、今後も週休3日という働き方は広まっていくはずです。制度として更に良いものになる可能性もあるため、現在の週5日という働き方が合わないと感じる人は、今回紹介したメリット・デメリットを踏まえつつ、週休3日という働き方を検討してみてはいかがでしょうか。