調剤薬局が今こそ人事評価制度を導入すべき理由

薬剤師として保険薬局で10年間勤務後、社会保険労務士事務所を開業した鈴木氏による、よみものです。


ここ数年、人事評価制度を新しく導入する薬局、大きく変更する薬局が増えています。実はこれは、薬局業界に限らず日本企業全体に言えることでもあります。ではなぜ、今そのような企業が増えているのでしょうか。それは、働き方改革に対応するためです。働き方改革における目的の一つに『多様な働き方の実現』があります。この目的を実現するためには、ただ国が法律を整備するだけでは足りません。企業側も、多様な働き方の実現に向けて社内の制度を大きく変更していく必要があります。その変更の一つが人事評価制度の導入、変更なのです。週休3日制も多様な働き方の一つであり、導入にあたっては人事評価制度についても考える必要があると言えます。
この記事では、まだ人事評価制度を導入、変更していない薬局が、今こそ人事評価制度を導入すべき理由をについて、詳しく見ていこうと思います。

働き方改革とは

まずは『働き方改革』について再度確認です。
日本では、
・少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少
・育児や介護との両立など、働く人の環境やニーズの多様化
といった状況に直面しています。
こうした状況下で、
・投資やイノベーションによる生産性向上
・就業機会の拡大や、意欲・能力を存分に発揮できる環境作り
が重要な課題となっています。
『働き方改革』はこれらの課題を解決するため、働く人が置かれた個々の事情に応じて多様な働き方を選択できる社会を実現し、一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。

具体的には、

  1. 働き方改革の総合的かつ継続的な推進 2. 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等
  2. 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
    の3つを大きな目的とし、それぞれ関連する法律を改正しています。

働き方改革に関連する法改正は続く

『働き方改革』が進む中、2018年に公布された「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)の後も続々と法改正が行われています。その中には『2. 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等』に関連する法改正も多く、2015年に安倍内閣が掲げた『一億総活躍社会』の実現に向け、少しずつ歩を進めています。

一億総活躍社会とは

2015年9月、当時の安倍内閣がアベノミクスの第2ステージとして目標に掲げました。具体的には、
・若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会
・一人ひとりが、個性と多様性を尊重され、家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、それぞれの能力を発揮でき、それぞれが生きがいを感じることができる社会
・強い経済の実現に向けた取組を通じて得られる成長の果実によって、子育て支援や社会保障の基盤を強化し、それが更に経済を強くするという『成長と分配の好循環』を生み出していく新たな経済社会システム
このような社会を一億総活躍社会といい、その実現のための施策が『働き方改革』です。
~~~~~~~~~~~~~

週休3日という働き方もまさしく「多様で柔軟な働き方の実現」であり、働き方改革に関連した法改正を無視することはできません。そこで、まずは2022年以降に施行が予定されている法改正について簡単に見ていきます。

①雇用保険マルチジョブホルダー制度

【2022年1月~】
2022年1月より、雇用保険マルチジョブホルダー制度が開始します。この制度は、複数の事業所で働く65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して以下の要件を満たす場合に、特例的に雇用保険の被保険者となることができる制度です。

(1)複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
(2)2つの事業所の労働時間を合計して、1週間の所定労働時間が20時間以上であること
(3)2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

②傷病手当金の支給期間の通算化

【2022年1月~】
2022年1月より、傷病手当金の支給期間の通算化が開始します。傷病手当金とは、会社で健康保険に加入している人が病気等で休業した時に、従業員とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。病気やケガのために会社を休み、十分な報酬が受けられない場合に傷病手当金が支給されます。

これまでの支給期間は、支給を始めた日から起算して1年6カ月を超えない期間とされてきました。しかし、がん治療のように休職と復職を繰り返すケースも増え、治療しながら働く人に対して十分な生活の保障ができませんでした。そこで、治療と仕事が両立できるよう、2022年1月から、出勤に伴い不支給となった期間がある場合には、その分の期間を延長して傷病手当金の支給を受けられるようになります。

③育児・介護休業法の改正

【2022年4月~】
2021年6月に育児・介護休業法が改正されました。出産・育児等による離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするための改正です。内容としては大きく5つあり、2022年4月から順次施行されます。

(1)妊娠・出産の申出をした労働者へ育休の周知・意向確認の義務化【2022年4月~】
(2)有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和 【2022年4月~】
(3)男性の育児休業取得促進のため、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組み(産後パパ育休)の創設 【2022年10月~】
(4)育児休業の分割取得が可能に 【2022年10月~】
(5)従業員数1000人超の企業に対して育児休業取得状況の公表義務化 【2023年4月~】 

④年金制度改正

【2022年4月~】
2020年6月に公布された年金制度改正法が、2022年4月から施行されます。女性や高齢者の就業が促進され、多様な働き方をする人の増加にも対応し、高齢化社会における経済基盤の充実を目的とした改正です。

具体的には、次の4つの改正があります。

(1)厚生年金保険・健康保険の適用範囲拡大
(2)在職定時改定の導入
(3)受給開始時期の選択肢拡大
(4)確定拠出年金の加入可能要件の見直し

この中でも会社・従業員の双方に影響の大きな改正が『(1)厚生年金保険・健康保険の適用範囲拡大』です。これまで、アルバイトやパートタイマーなどの短時間労働者が厚生年金保険・健康保険の適用となるには、企業規模として従業員501人以上という要件になっていました。この企業規模要件が、
2022年10月~:従業員101人以上の企業
2024年10月~:従業員51人以上の企業
というように、厚生年金保険・健康保険の適用範囲が段階的に拡大します。

薬局においても『働き方改革』への対応がこれまで以上に必要に

見てわかるように人事労務に関する法改正も多く、これはつまり、今後も『働き方』の変化は続くということです。これまでも多様な働き方を進める改正は行われてきましたが、国が今後も更に推し進めていくことは間違いありません。

こういった改正の影響で、薬局においても多様な働き方への対応がこれまで以上に求められます。多様な働き方をする従業員は間違いなく増えるわけで、そういった従業員が働きやすい職場であるかそうでないかで、従業員の定着率は大きく変わってきます。

では多様な働き方をする従業員が働きやすい職場にするためには、どういったことが必要なのでしょうか。

それが、多様な働き方をする従業員も公平に評価されるような人事評価制度の構築です。

人事評価制度とは

おそらくほとんどの薬局で、人事評価は行っているはずです。しかし評価に明確な基準を作り、制度として導入している薬局は意外と少ないのではないでしょうか。店舗数が1店舗や2店舗で従業員が多くない会社だと、必要性もあまり感じないかもしれません。

しかし、多様な働き方をする従業員が増えつつある現代では、薬局においても人事評価制度の重要性は以前よりも高まっています。
以前の会社経営は、バスにのった経営だと言われていました。経営者が運転手として前を見て運転し、従業員はバスに乗り、経営者の行く先に従うのみです。つまり、上司や経営者の指示命令をいかに忠実に守るかが重要だったのです。
しかし時代とともに経営も徐々に変化し、現代では従業員それぞれが自分の車を運転しています。運転する車も異なり、行く先もそれぞれです。そういった従業員に行く先を示し、それぞれのゴールを会社のゴールとすり合わせる。そのために必要なのが人事評価制度なのです。

人事評価制度の変遷

人事評価制度は、時代の変化とともに移り変わってきました。
戦後の動乱期には、はっきりとした人事評価制度がなかったと言われており、どちらかというと生活のためにのみ働く生活主義といえます。
次に、日本が戦後もっとも急成長した1960年代には、年功主義の人事評価制度が導入されていました。年功序列や終身雇用といった日本型雇用の特徴が形成された時代です。年齢とともに給与が上がり、定年まで同じ会社で働くことが当然と考えられていた時代ともいえます。
その後1970年代にオイルショックが起こり、日本の経済成長にもかげりが見えてきます。企業の成長も大幅に低下することで、年功主義の人事評価制度は維持が難しくなりました。この頃から少しずつ、個人の能力を評価するシステムを作り、その能力によって賃金を決めていく職能主義への切り替えが始まります。
しかし1990年頃に戦後初めてプラスマイナスゼロ成長の経済に突入すると、バブル崩壊を迎えます。この時代になってくると、従業員の能力が上がっただけで賃金を上げるという仕組みも、維持することが難しくなります。
そういった背景から成果主義の導入が進みました。日本で完全な成果主義はなかなか難しく、多くの企業では年功主義と能力主義、成果主義が併用されています。併用する中で、年功主義、能力主義、成果主義のバランスに各企業の特徴が現れています。

現代の人事評価制度に求められるもの

このように、時代の変化とともに移り変わってきた人事評価制度ですが、多様な働き方をする従業員が増えている現代では、どのような人事評価制度が必要なのでしょうか。もちろん会社によって正解は異なりますが、一つ挙げるとすれば「職務を定義すること」です。職務とは、従業員がその会社で行うべき仕事であり、担うべき役割のことをいいます。人事評価制度において職務を定義するということは、「どういった業務、役割を担った人が評価されるか」を明らかにすることとも言えます。

多様な働き方をする従業員が増えていく中で、年功主義や、長時間労働が前提となっているような評価基準は時代に合いません。評価基準を職務で定義し、多様な働き方をする従業員でも職務に沿った働きをすれば公平に評価される環境を整備することが、多様な働き方をする従業員でも働きやすい環境作りにつながると言えます。

まとめ

このように、今後施行予定の法改正を見ても、多様な働き方は更に推し進められていき、薬局としてもこれまで以上の対応が必要となります。そして法改正に対応するだけでなく、多様な働き方をする従業員が働きやすい環境を整備していく必要があります。その整備の一つが、職務の定義による評価基準を示した人事評価制度の導入です。これにより、多様な働き方をする従業員が公平に評価され、全ての従業員が仕事を通して生きがいを感じられるような企業になっていけるはずです。

関連記事

TOP